新型コロナの急性期は5〜10日で収束するが、一部の患者では症状が数か月にわたって残る。日本ではこれを公式には「罹患後症状」、一般には「後遺症」、英語圏では「Long COVID」と呼ぶ。第一波から4年が経過した今、日本国内には信頼できる統計データと、実際に機能する患者の受診導線が蓄積されてきた。難しいのは、「どこに相談に行けばいいのか」の判断だ。統一された中核センターは存在しない。
罹患後症状(Long COVID)とは何か
WHOはLong COVIDを、急性感染から2か月以上経過しても症状が持続または再出現し、他の疾患では説明がつかない状態と定義している。日本の厚生労働省(MHLW)は「罹患後症状」という用語を採用し、基本的な考え方は同じだ。急性期はとうに終わり、ウイルスも検出されないのに、症状だけが残る——それがこの状態である。
重要な点として、症状の現れ方には次の3パターンがある。
- 感染時から途切れずに続く
- 回復後、数週間経ってから新たに出現する
- いったん消えたあと、波を打つように再発する
これら3パターンはいずれも同じ「罹患後症状」に含まれ、臨床現場ではほぼ同じ頻度で見られる。ただし日本の医療システム上、「Long COVID」という単独の病名は存在しない。医師は個別の訴え(倦怠感、咳、ブレインフォグなど)を記録し、それぞれに対して対症療法を行う建て付けになっている。
日本国内の規模
WHOの推計では、新型コロナ感染者の約6%が罹患後症状を経験するとされている。日本では公式に登録された感染者数が約3,400万人。単純計算で約200万人が該当することになり、2023年に全数把握が終了して以降の未把握感染者を加味すれば、実数はさらに大きい。
国内最大規模の地域調査は、東京iCDCが2024年2月に都民1万人を対象に実施したアンケートだ。症状を経験した人のうち、およそ85%が「日常生活に非常に/ややあった」と回答している。症状のパターンは感染した株によっても異なる。オミクロン系統以降の主流株では長引く咳が目立ち、デルタ以前では嗅覚・味覚障害の訴えが多かった。
リスクが高いのは、女性、中高年、急性期に重症化した人、そして基礎疾患を持つ人だ。小児は相対的に少ないが、皆無ではない。BA.3.2「セミ」株の登場以降、小児科医は子どもの罹患後症状に関する相談が増えていると報告している。
主な症状
各都道府県の医療機関リストが「罹患後症状」に含める症状は非常に幅広い。たとえば千葉県のリストには25以上の項目が挙げられている。臨床の実感として、1人の患者が単一の症状だけを訴えることはまれで、通常は2〜3個の症状が組み合わさる。
| グループ | よく訴えられる症状 | 受診先の目安 |
|---|---|---|
| 全身 | 慢性的な倦怠感、脱力感、微熱 | 内科・総合診療内科 |
| 呼吸器 | 咳、息切れ、胸の痛み | 呼吸器内科 |
| 循環器 | 動悸、脈の乱れ、血圧の変動 | 循環器内科 |
| 神経系 | ブレインフォグ、記憶力低下、頭痛 | 神経内科 |
| 耳鼻咽喉 | 嗅覚・味覚障害、耳鳴り | 耳鼻咽喉科 |
| 精神・睡眠 | 抑うつ、不安、不眠 | 精神科 |
| その他 | 脱毛、皮疹、下痢、筋肉痛 | 各専門科 |
特に注意すべきなのが、労作後倦怠感(PEM:post-exertional malaise)だ。身体的または知的な活動の5〜48時間後に、症状が急激に悪化する現象を指す。Long COVIDを専門に扱う医療機関はこれを警戒サインとして扱う。放置すれば、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)へ移行するリスクがあるためだ。PEMがある場合、医師は「無理に体を動かす」「気合で運動する」といった対処を明確に禁じる。
日本ではどこに相談するのか
罹患後症状に対応する「国全体の中核センター」は存在しない。2021年3月から2024年3月まで運営されていた東京の都立病院コロナ後遺症相談窓口はすでに閉鎖され、代わりに東京都は医療機関の検索ポータルを立ち上げた。同様のリストは各都道府県が個別に整備している。厚労省は各都道府県サイトへのリンクをまとめたページを公開しており、まずここから出発するのが実務的だ。
患者が実際に取るルート
現場での動き方はシンプルに以下のとおり。
- まずはかかりつけ医、または急性期に治療してくれた医療機関へ。診療履歴があり、初診の紹介状も出してもらえる
- かかりつけ医がいない、あるいは罹患後症状に対応していない場合は、都道府県のサイトで「罹患後症状 対応医療機関」または「後遺症外来リスト」を検索
- 受診先は、自分の中心症状に合った専門科(上の表を参照)で選ぶ。ジャンル指定なしの「後遺症外来」は混雑しやすい
- 初診の前に電話で「新規患者を受け付けているか」「自分の症状パターンを診てくれるか」を確認する
手間がかかるように見えるが、この順序が結局いちばん早い。専門クリニックにいきなり行っても、あなたの既往を知らないため初回はほぼ問診で終わってしまう。かかりつけ医であれば必要な情報を紹介状ごと引き継いでくれる。
保険・仕事・お金の話
罹患後症状の診断と治療は、通常の医療保険(国民健康保険または勤務先の健康保険)でカバーされる。窓口負担は原則3割。Long COVIDに特化した承認薬は存在せず、医師は症状に応じて対症療法を組み立てる——吸入薬や抗炎症薬から、漢方、認知リハビリまで選択肢は広い。
症状のせいで4日以上連続して働けない場合、健康保険組合または協会けんぽに加入している被用者は「傷病手当金」を申請できる。支給額は平均賃金のおよそ3分の2、支給期間は最長1年6か月。申請には医師の診断書が必要で、そこには「就労不能の原因が罹患後症状であること」が明記されていなければならない。すべての医療機関がすぐにこの書類を書いてくれるわけではないが、専門の後遺症外来なら対応してくれることが多い。事前に確認しておきたい項目のひとつだ。
押さえておきたいこと
Long COVIDは、もはや連日ニュースで取り上げられるテーマではないが、消えてはいない。患者数は数百万人単位で、対応する仕組みもすでに整いつつある——都道府県別の医療機関リスト、専門の外来、通常の医療保険適用。押さえるべきポイントはひとつ。倦怠感やブレインフォグを気合で乗り越えようとしないこと。まずはかかりつけ医、いなければ自分の都道府県のサイトから症状に合った後遺症外来を探すこと。早く医療につながればつながるほど、ME/CFSへの移行リスクは下がる。